本当の自分ってなに?奇妙だけど美しい大人向けサスペンスアニメ 「パーフェクトブルー」(マッドハウス)(※ネタバレ有) SF映画とか、ちょっと昔に作られた近未来アニメとか見ていると、だんだん昔は夢物語だった未来の技術や世界と現実が近くなってきているなと感じる時があります。 本日紹介するオススメアニメ「パーフェクトブルー」は、1998年に制作されたもので、まだパソコンやテレビがブラウン管の昔懐かしい世界ですが、 ネットやSNSが普及した現代にこそ響くテーマを扱っている作品です。感想を書いていきますね。
パーフェクトブルーあらすじ
引用:https://movies.yahoo.co.jp/movie/153473/
アイドルの霧越未麻は、女優に転身することを決意して引退を宣言しました。
しかし、自分の決意と裏腹に引退を惜しむファンも少なくありません。
マネージャーのルミからもアイドルを続けたかったのではないかと心配されてしまいます。
未麻は「女優になるって決めたんだもん」「大丈夫だよ」と笑顔で返事をするのでした。
彼女に舞い込む仕事は、レイプされるヒロイン役、ヌード写真のモデルなど過激なものばかりになっていきます。
ある時「事務所に迷惑はかけられない」と、我慢して仕事をする未麻の周りで、奇妙な殺人事件が起き始めました。
出演中のドラマ「ダブルバインド」の関係者や、カメラマンが殺害されていきます。
また、「未麻の部屋」というブログには、未麻ではない誰かが彼女を装い「アイドルに戻りたい」「こんな仕事は嫌だ」と更新されているのでした。
ついには、「アイドルに戻りたい」「本当の未麻は自分」と言う鏡の中の幻覚に「あなた誰なの?」と怒る未麻。
何が現実で何が虚構かわからなくなって疲弊してしまいます。
やがて、一連の殺人事件や自分を追い詰めていた元凶がルミだと知った未麻は、ルミとの取っ組み合いの末、本当の自分を取り戻したのでした。
パーフェクトブルー感想
本作は、「パプリカ」「妄想代理人」などの名作を生み出すも、若くして亡くなった天才アニメーター今敏氏の作品の一つであり、知る人ぞ知る名作アニメですよね。
私は大人になって観ましたが、今監督の代名詞ともいえる現実と虚構が入り混じり、だんだん境界線が曖昧になって観ている人の心が掻き乱されるような演出は、不気味な感覚になります。
また、ダブルバインドの中や現実でのレイプやヘアヌード、血しぶきが飛び散る凄惨な殺人事件など、アイドルがモチーフなのとは裏腹に過激な描写の多い作品ですよね。
「え?ドラマ?現実??」と頭が混乱してくる後半、未麻と一緒になんだか気持ち悪い感覚になってくるのですが、その気持ち悪さに病みつきになってしまいリピートせずにはいられません、本当に素晴らしい!(笑)
気持ち悪いとか不気味とか言っていますがめちゃくちゃ褒めていますよ(笑)
また、若い未麻がインターネットについてさっぱりだったのを見るに、ひと昔前の時代設定ですが、それでも現代に通じるメッセージが込められているのも面白いです。
そんな中で私の思う特に好きなポイントを以下にまとめました。 「誰かが期待する未麻」を打ち破る この作品の演出は本当に見事です。 絵も綺麗で、未麻はとっても可愛いですし、アイドルとしてライブしている時のダンスとかキレキレで最高です(笑)
ミステリー要素も大変面白く、終盤になるにつれて「分裂した未麻の一部が殺人鬼になったのではないか?」みたいな描写がありますが、 最終的に犯人は「アイドルとしての未麻に自分の理想を重ねていたルミ」で彼女こそ多重人格になっていましたね。
最終的に未麻が車のミラーをみて「私が本物だよ」と言って終わるラストは、彼女が誰かに期待される姿を演じる自分ではなく、自分がなりたい自分を確立して大人になったように見えます。 しかも最後の大人っぽい未麻が超絶美しい(笑)
この作品の好きなところは、いろんな人から期待される自分を演じて摩耗した未麻が「私は私よ!!」と自分を取り戻すところです。
「こうあるべき」みたいなレッテルに縛られるのではなく、客観的にみて考え直してみる大切さみたいなものを感じますね。
この作品は、オチまでいくにあたり「アイドル」とドラマ「ダブルバインド」が重要なメッセージとなっていると個人的に解釈しています。
ネットで調べてみたところ、アイドルの語源はギリシャ語の「像」を意味する言葉で、崇拝の対象となるものを表しているそうです。
また、「ダブルバインド」は精神科医が提唱した原因論「ダブルバインド効果」からきていると思われます。
この現象は「二つの矛盾した状態やメッセージで相手を拘束することで、相手の精神にストレスがかかる状態」を指しているそうです。
例えば、母親が子供に「毎日を楽しみなさい」といった後に、母親が「子供が笑顔でいると不機嫌、無言になる」という非言語メッセージ(しぐさや動作、雰囲気をつくる)を与える状況が続くと 子供は混乱してストレスを抱えてしまう、というものだそうです。 引用元(https://beehave.infodex.co.jp/entry/doublebind)
もうこの意味を改めて解き明かすだけで、このアニメの演出凝っているな~と感じてしまいます(笑) 作中ドラマのダブルバインドの脚本は、未麻演じるヒロインが、多重人格の殺人鬼だったというものでした。
劇中、事情聴取で質問しても「私は女優よ」「私はモデルよ」と問うたびに違う人格になっていました。
ドラマはあくまで役で演出でしかないものの、実際に未麻は芸能人で元アイドルであるが故にいろいろな姿を他人に期待されながら過ごしており、 ダブルバインドが起きそうな環境を内包しています。 「ファンから期待されるアイドルの未麻」 「ルミから期待された彼女の理想のアイドルの未麻」 「家族が期待する芸能人としての未麻」 「事務所から期待されるアイドルを脱却した女優の未麻」 「ドラマで与えられた役を演じることを期待される未麻」 などなど、普段から自分の本心と違う仮面を被ることを余儀なくされるし、時には不本意な行動をとらなければなりません。
特に芸能人として生きるからには、仕方のないことかもしれませんが、これはとても大変で苦しいことですよね。
序盤の母親との電話で、「アイドルのイメージは息苦しいんよ」と言っていたことから未麻はそういった可愛らしい清楚なアイドルのイメージを守ることに疲れてしまっているようにも感じます。
アイドルのイメージとかけ離れた仕事をすればするほど、鏡の中の未麻が、「自分こそが未麻であなたは偽物」と言い出します。
これは彼女の心が本音を言っているのか、と思いきや、おそらく「ストーカー男」や「元アイドルで未麻に自分を重ねていたルミ」が押し付けていたのだと思います。
アイドルとして、可愛いく清楚な未麻であってほしいという二人の理想の押し付けは、美麻が冒頭母親と話したセリフを見るに、未麻が疲れているイメージそのものでした。
しかし二人はアイドルの未麻が好きで、ルミに至ってはかつてアイドルとして活躍していたこともあり美しかった自分の姿を未麻に投影することで自分の気持ちを満たしていたのかもしれません。
二人には一人の女の子としての未麻は見えていません。
そしてアイドルの未麻のイメージを壊したことに憎悪し、ドラマの脚本家やカメラマン、アイドル脱却をさせた田所社長は二人のどちらかに殺されていました。(実際どっちが犯人だったかは描写がなくて不明)
実際に殺しが起きてしまって、作られたイメージのほうが現実に足跡を残し始めてから未麻はどんどん混乱していきましたが、 最後にルミから逃げた先で初めて虚構の自分と生身の自分が同じ鏡に映り、未麻が自分自身の顔をしっかり認識したシーンで「私は私」と言い切ったあとに虚構の未麻がルミの顔に変わりましたね。
あそこで初めて未麻が自分を取り戻したように見えました。
理想やレッテルを「アイドル」というモチーフを使って描き、期待される姿と実際の自分の間で苦悩する未麻をダブルバインドというドラマや鏡を使って表現している演出は本当に見事です。
身近にあるもので比喩表現してありますが、これは私たちにも少なからず起きる問題だと思います。 今は特にSNSもあるので「作り上げたネット上の自分」と現実の自分が乖離してしまう、メディアでいいように作り上げてしまったイメージに実際の出来事が隠されてしまう、 会社で上司に期待される振る舞いと実際の自分がだんだんずれてしまう、みたいなことってあるかと思います。
ギャップ萌えみたいにいいように取れればいいですが、本心と違うことを口に出したり、四六時中演技しなければならないのはつらいですよね。
私は、今の社会はこういったリアルからの分離みたいなものが起きやすいとも感じます。 パーフェクトブルーという作品から、例え周りから「こうしてほしい」「こうあるべき」みたいなものを押し付けられても、 それに委縮することなく、自分は自分であるという意思を持つことを大切にしよう、というメッセージを感じるのです。
今回は、「パーフェクトブルー」についてでした。 今回の記事を読んで「もう一回見直したい」「久しぶりに見ようかな」「友達にすすめてみよう」と思っていただけたなら幸いです(笑)
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